どこにでもある職場のセクハラ、エゴ、駆け引き
長寿ニュース番組の有名キャスターがセクハラで訴えられる.。
舞台がテレビ番組ではあるが、社外の出来事はほとんど描かれず、社内で起こった人事関係やちょっとした出来事が中心だよ。
社内で自分の地位を守るため、上役にご機嫌をとったり、密かに上役に切れたりとか。
必ずしも暴力やセックスなどのセンセーショナルな展開ではなく、私のようにサラリーマン経験や、何らかの組織で働いた経験がある人には、見慣れた駆け引きが描かれている。
なのに「ザ・モーニングショー」では必ず、思ってもいない展開が待っていた。
(「ザ・モーニングショー」は、2021年9月17日にシーズン2が公開される。ここでのレビューは
「ザ・モーニングショー」シーズン1だ)
予告編↓
私はテレビ番組の裏側を見せる話には全く興味がない。何故かと言うと、その手の番組は、もう見飽きているから。
例えば”mee, too”運動直後に公開された「スキャンダル」と言う映画。
これもニュース番組の元キャスターが過去のセクハラで上役を訴えるという、「ザ・モーニングショー」と双子のような設定なんだ。
実際に”mee, too”運動が起こるより少し前の時代を扱う「スキャンダル」では、多くの女性が、誰も過去の出来事を公にして訴訟等に加わろうとしない。
でもだから?
セクハラは日常茶飯事。だけどあえて公にするにはストレスや失うもの、耐えなければならないことが多すぎる。
現在の仕事を失うリスクを犯してまでそんなのする?
公にし訴えた途端、自分に隙があったとか、被害を受けた女性への攻撃やら憶測、批判などが容易に想像でき、逆にそういうことへの反撃だとか真実の証明は、あまりにも面倒で、難しいから。
「スキャンダル」は事実に基づいているだけあって描かれていることは納得するけれど、「まあそうだろうね」という感じしかなく、主演のシャリーズ・セロンの別人ぶりに感心している間に映画が終わってしまったというか。
10話ぶっちぎりの、圧倒的な緊張感
でこの「ザ・モーニングショー」。
私は相当な映画オタクなので、最初の5分間10分見れば、大体どんな感じの映画なのか想像つく。映画館では最初の5分が最悪だったとしても一応30分ぐらい見る。
でも今のようにVODでオンラインだと、もう5分を見ただけでつまんないと別の番組を検索してしまう。
まぁ経験的には実際に10分でつまらなくても30分後に面白いことこともない事は無い。でも大抵は10分みて駄目だった場合は全部みてもダメと言う気がする。
なのでアップルで「ザ・モーニングショー」は99%、最初の数分以降見ないつもりだった。
ところが最初から「何が起こってるの?」と言う緊迫感というか、先が読めない感じがあった。
圧倒的な緊張感は最後まで続き、1話目はらくらく全部観てしまい、しかもその後も毎日1話ずつ見るワクワクするその時間を、毎日とっても楽しみにしていた!
この記事では「ザ・モーニングショー」に出てくる3人の女性が出会う、オフィス環境で働く人なら誰にでもありがちな葛藤を紹介するよ。
あらすじ
アレックスはミッチと共に長年キャスターをつとめるザ・モーニングショーで「米国の朝の顔」として公認される有名人だ。
彼女はザ・モーニングショーで自分が中心人物だとの思いがあるので、上役の背広組が自分の知らないところでミッチの後任を検討したり決定するのに怒りを感じている。
また「仕事場の夫」と自ら呼ぶほど職場の同僚としての友情も感じていながら、上役にはミッチの方が高く評価されていることにも密かに危機感を覚えていた。
一方アレックスは長年その地位にいて、ミッチの女好き、女の尻を追いかけ、女もそれを喜んでいると解釈している様子を背後から見ていて、それを当然のこととして問題視しなかった。
けれどもミッチのセクハラ相手の誰かのリークで降板になるとアレックスも、番組を刷新したい上役から降板を暗示されるようになる。
追い詰められ自暴自棄になって、上役にはただミッチの後任候補としてほのめかされたに過ぎなかったブラッドリーを、勝手にミッチの後任者としてパーティーで発表するという暴挙にでる。
職場の関係だからこそ、無自覚に無意識に行われる行為
ミッチはザ・モーニングショーのトップキャスターであり、自分が社会からも会社からも高く評価されて、自分の力を誰もが認め、自分には女性にモテ、女性は自分のことをに性的なからかいや暗示をされることを喜んでいると勘違いしている典型的なおっさんだ。
そして周りもアメリカのザ・モーニングショーの顔であり人気者であるこのミッチのおっさんぶりを当たり前のこととしてなれきっていた。
私は普通に日本で暮らす女性として、仕事関係の人から怪しげな誘いを受けるとか、電車の中で体を触られるとか、見知らぬ人にいきなり性器を見せつけられるとか、そのようなセクハラは何百回も会ってきたけれど、やはりそれを滅多に公にしなかったのは、日常的ではあるけれど各々その場だけだったことが大きいが、
証明が難しい
わざわざ公にするのめんどくさい
と言う気持ちがあったからと思う。
このドラマの良いところは、それがいいのか悪いのかという2者選択でもなく、職場で上位の立場を利用し他人の肉体に踏み込んでいく行為の無自覚さ、そしてハラスメントを受けた側の、起こったことが引き金となって自分の尊厳を自分自身でなくしてしまうまでの葛藤が、丁寧に描かれていることだ。
「ザ・モーニングショー シーズン1」
ネットの配信によるアップルTVチャンネル Apple TV
シーズン1 計10話
キャスト
ジェニファー・アニストン、リース・ウィザースプーン、スティーヴ・カレル、ビリー・クラダップ、マーク・デュプラス他
製作 2019年11月
アレックスは「管理したい病気」に罹っている
前半では女性としてトップの社会的地位に上り詰めてもさらに男社会でストレスを抱えて同時に自ら男性のように周りに管理者ぶってストレスを与える存在にもなっていくアレックスの様子に焦点が当たる。
ザ・モーニングショーで「アメリカの朝の顔」となったアレックスはアメリカ社会の理想を体現すべく、公には家庭円満を演じている。
が、仕事の成功や名声を優先し、私生活を犠牲にしてきたために娘からは責められ夫とは別居している。
そんなアレックスにとって自分の存在意義はザ・モーニングショーのキャスターというポジションしかなく、ポジションを守るためならなんでもするくらい追い詰められる。
アレックスは自分の主導権を守るため、ミッチの後釜としてブラッドリーを独断で公表したまでは良かったが、ブラッドリーがミッチの後任に収まると真実の追求のためなら自分の地位など二の次であるブラッドリーの姿勢に常に脅かされることになる。
私はアレックスは本来は良い人だと思う。が、社会的成功を手に入れたアレックスは、「管理したい病気」に罹っていると思う。
成功を手にしたため安易に今のポジションを手放したく無いというか、ポジションを脅かされるたびにますます守りに入る。
私の友人にもアレックスのような人はいる。長年大企業のトップクラスに君臨してきた人は、男女関係なく、管理することが自分の性格の一部になってしまっていると思う。
自分には決定する能力や権利がある、と決めつけているので、他人がそれをどう思うかはあまり関係ない。なぜなら他人には決定する能力がないのだから、自分が決定する方が彼らのためだと思っている。
自分に忠実なのは茨の道、ブラッドリー
ブラッドリーがザ・モーニングショーに登場する回で「嵐を呼ぶ女」とタイトルがついているように、KY空気読めない性格、自分のポリシーに反することができない。
だからSNSで注目されるまでは出世もできなかった。
常識的人間から見るとかなり勝手気ままに映る。
ただもう熱血漢で正義感と言うありえない人物像や映画が多い中、このシリーズの良いところは登場人物を単純な紋切り型にはめていないところ。
ブラッドリーは一直線で自己に忠実だからこそ、悩んでもいる。
自分の考えを押し通すことで、自身が人を傷つけることがあったことを逡巡し迷って、ダメ男系の自分の弟に突然電話して相談したりしている。
そして中盤では向こう見ずで、ただ思ったこと言うだけの女性であったブラッドリーが、たまたまソーシャルネットワークで注目を浴びたために、表舞台へ引き上げられてしまう。
注目され、アレックスに利用される形でミッチの後任になり、旧態然とした上役には毎回首を切られそうになりながらも、時代に合った発言が視聴者には受け入れられ視聴者に助けられ人気者になっていく。
しかし自分の物怖じしない発言や、正義を追求するがために周りを追い込んでしまうと言う過去とのせめぎ合いで、番組の仕事でも自分のこれまでの態度を継続すべきかなど悩み抜く。
他人に振り回されて自分を見失う、ハンナ
番組の後半、回想シーンから存在感を増してくるハンナは、ミッチに気に入られて、出張に呼び出される。ハンナは、ミッチの誘いを断らなかった。ミッチにやめてとも叫ばなかった。ただ「そんなつもりじゃなかった」「もう帰るわ」とは言った。
ここに出てくる女性たちのほとんどがとても野心的な人たちで、昇格などを人生の大きな目標に掲げているように見える。だからハンナには、ここで抵抗すると昇格に差し支えが出るとか、少なくともポジティブに影響与えないだろうと言う不安があったのかもしれない。
私はどちらかと言うとブラッドリーのタイプなので、昇格のためにそんな誘いに応じるような事は全く考えられず、そんなことで左遷されるなら結構って言うそういうタイプ。
私なら絶対、ホテルの個室に入った段階で警戒を始めるので、たとえ唐突でもたとえ有名人であっても相手の行為を止めたと思う。
でもハンナは多分そういうタイプではなくて、ここで断るのはどうなのかとか決め切れないうちにミッチがことに及んでしまったと言うそんな感じではないだろうか。
自惚れと勘違いの塊のようなミッチは、ハンナが自分の誘いを受けて嫌ではないと決めつけて「やめて」と言われても無視してさっさと行為に及んだと思う。
ハンナは仕事でミッチにその後出会った時ミッチにほとんど無視される。そのためハンナは結局ミッチは自分ののこと本当に気にいっているとか、仕事を評価しているわけではなく、ただ1晩の関係だけを求めて利用されたのだと理解する。ハンナは侮辱されたと感じたのか、上役のところに直談判に行く。
なぜ人事部に行かずに上級職員のところに行ったのか?
衝動的に役員のところに行ったのか?またはやはり何らかの見返りを求めてわざわざ上級職員のところに行ったのか?
実際にハンナは昇格を提示される。全く唐突に。そしてハンナはそれを了承する。結局私の理解ではハンナは昇格の為なら正義を取り下げるタイプであったのだ。
または、そのような計算はなかったのだが、ここで公にされてトラブルになるよりは、とりあえず取り計らいをしてもらったのだから、穏便で自分にとって損はない解決法であると了解しそれでよしとしようと考えたのかもしれない。
このドラマの良い所は、このハンナの葛藤をうまく描いていることだ。ハンナは昇格し責任ある立場になり、多分給料も上がった。
しかし、ハンナは、クビになったミッチから連絡を受けていた。それはミッチの上司も、ミッチの餌食になった女性を黙らせるための工作を働いていたと言う意味で共犯だと証言してくれと言う頼みだった。
ハンナは匿名でいいならと承諾する。
私ならミッチを信用しないし、自分の証言がミッチに都合に良いよく利用されかねないと思うので、証言をミッチのためにしようなどと思わない。もし証言するならミッチと関係なく自分で別のルートで証言しミッチや上層部の隠蔽体質を暴くと思う。
が結局はミッチはハンナの名前を出さないと言っていたのに名前を出し、メディアにハンナが証言する予定だと漏らしていた。さらにそれを嗅ぎつけた上層部がハンナに、さらなる昇格とセットの遠隔地への転勤を提案していた。
ハンナは結局薬の過剰摂取で死亡する。ハンナが自殺を図ったのか、苦痛に耐えかねて薬を過剰摂取してしまったのか、または何者かに殺されたのか、わからない。
ドラマの流れとしては、自殺に近い感じの扱いだとか思う。
ハンナは、再び口を閉じる変わりに昇格を了承するのか、選択を迫られた。
でもミッチの上司がハンナを黙らせたことについてインタビューを受けると、すでにメディアに漏らされていた。なので、昇格した後もまた自分の進路は確約されないだろう。
ハンナは、上司の誘いに断固とした拒絶をせず、さらに計算してなかったとしても実際に昇格してもらい、また上司の自己弁護に利用されることで過去の出来事が公にされそうで、結局他人に振り回されて自身を追い込んでしまったのだと思う。
最後にApple TVの感想
「ザ・モーニングショー」でも明らかだけれど、Apple TVの番組は全体的にクオリティーが高く、一流の人気俳優やキャストも揃えている。
ただ問題は字幕にある。
「ザ・モーニングショー」では、字幕が映像と合ってないので、事件が起こっている真っ只中の映像シーンで、その前の穏やかな会話の字幕が流れるなど、一貫して字幕のせいで作品が台無しだった。
それでも読めるだけマシで、多くの場面で字幕が0.5秒くらいで消えて肝心な場面でセリフが全く読めなかった。
私は英語の普通の会話ならわかるとは言え、専門的なことや、早口で話しているシーンなどでは字幕の助けが必要だったものの、あきらめて耳で理解するしかなかった。
アップルTVの作品は、あまり尖った芸術性の高い作品より、アップルのブランドイメージを落とさない社会性あるエンターテイメントや、良質なハリウッド映画を狙っている印象で、一方字幕にもまともなクオリティーアセスメントの仕組みが必要だと思った。
トップ画像:アップルTV公式ページより
コメント