イギリスの小説に現れる家

映画と本の紹介

私はイギリスの文学に思い入れがあったわけでも何でもないのだけれども、ふり返ればイギリスの小説にはまるで家が主人公のような話がとりわけ多かった。イギリスの家はそこに住む人間の時間をはるかに超えた過去へと誘い、手を加え愛するほどに応えて暖かく包み混んでくれ、時を超えて生きる人間のような存在である。

ルーマー・ゴッデン「人形の家」


人形の家 岩波ものがたり絵本 9

話よりも表紙の裏の全部屋の絵が好きだった、子供の頃読んだ「人形の家」。調べたらイギリスの作家(Rumer Godden)によるものだった。(イプセンによる同名の戯曲とは無関係)どうりでイギリスの家に似ている。

 

 

 

 

ペイトン「フランバーズ屋敷のひとびと」


フランバーズ屋敷の人びと〈1〉愛の旅だち (岩波少年文庫)

中学の時に読んだこの物語では、クリスチナと言う私の当時の年齢と同じ位のイギリスの少女が父母を事故で亡くし、親戚が住むフランバーズ屋敷に引き取られる。この屋敷の人々にとって、乗馬が暮らしの中心である。乗馬へと向かい、戻ってくる大きなエントランスホールで、乗馬を介し人々は歓喜、怒りや罵り、悲しみの心情をぶつけ合う。そのホールとつながっていると思われる食堂では、クリスチナは使用人たちが運ぶ食事を食べ、叔父である家の主人との争い、使用人との複雑な関係を通して後半の物語へと展開する。

ダフネ・デュ・ モーリア「レベッカ」


レベッカ

高校くらいの頃読んだ「レベッカ」は、「マンダレー」と呼ばれるお屋敷を舞台にした心理サスペンスだ。イギリスでは、田舎の瀟洒な家に固有の名前がついていることが珍しくない。女主人の旅に付きそって働いていたヒロインは、孤独の影を落とすお金持ちの男性と出会う。ヒロインは求婚され、マンダレーと呼ばれる古い屋敷に住むことになる。ところがマンダレーには先妻・レベッカの過去が、そこら中に宿っていた。ヒロインは、マンダレーでレベッカを今も崇拝する召使や、レベッカの従兄弟から伝え聞く噂に、極限まで追い詰められていく。小説をもとにした映画では、マンダレーは破壊的なほど美しく、海に面した崖やコテージなどの情景とともに、ヒロインをレベッカの死の真相へと導いていく。

 

フィリッパ・ピアス「トムは真夜中の庭で」


トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))

トムは弟がはしかにかかったので、親戚の叔父叔母の家に預けられる。この家にネジで固定された古い大時計が、午前13時というありえない時刻を打つと、トムはビクトリア時代の衣装を着た少女に遭遇する。つまりこの古い家の古い時計が、トムを秘密の庭へ、過去の時間へと招く「トムは真夜中の庭で」は時間旅行の物語だ。

 

 

 

E・M・フォスター「ハワーズ・エンド」


ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7)

「ハワーズ・エンド」という名の田舎の家や、家を囲む豊潤な庭や自然を愛した女性・ルースが死ぬ。ルースは遺言で、家を即物的な家族に残さず、自分と感情を共有できた友人マーガレットに残す。家族はルースの遺言を密かに焼却して財産としての家を守ろうとするが、結局はマーガレットがこの家の主人ヘンリーに愛されたことで、家はルース同様、暖かな共感力を持つマーガレットやその家族に受け継がれ、結果としてルースの遺志が実現してしまう。

 

カズオ・イシグロ「日の名残」


日の名残り (ハヤカワepi文庫)

「日の名残」は、田舎の屋敷「ダーリントンホール」を管理する執事が主人公。第二次世界大戦前に執事は、自分が仕える家の主人が、家を訪れる人々と国際政治を議論するのを見聞きし、家も主人も世界の動向に影響力を持っていると信じている。しかし彼がたとえ認めようとしなくてもその栄光は大英帝国の歴史同様、まるで日が傾いて行くように落ちぶれて行く。

 

 

 

ヴァージニア・ウルフ「オーランド」


オーランドー (ちくま文庫)

この小説は、オーランドと言う1人物の伝記とされ、本の装丁もそのように見える。しかしこれはまるで冗談のような軽い文体で語られる、男性として生まれ、何百年もの時を経て女性に変化するオーランドの壮大なファンタジー。オーランドは貴族として365の部屋数の館に生まれ育つ。何百年もの間に館で生き死んだ祖先、館を訪れた世界の王族、館を支える召使い、広大な敷地の馬や牛や羊や犬や鳥、お気に入りの木や羊歯、敷地から見える首都ロンドンなど、館は365日の四季でもあり、何百年の時を生きるオーランドの分身のようでもある。

 

 

*過去に読んで手元にない本がほとんどなので、各表紙画像はアマゾンからお借りしています。

 

 

 

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