古い家には物語がある
私のイギリス人の親戚の人は、毎年のように壁を塗り替え、サンルーム(コンサーバトリー)をつけ、バスルームを取り替え、、、などしている。
自分のライフスタイルや感性を家に反映させて家が変わっていくので、もう家と住んでる人が、ほとんど一体化して感じられる。
家が、家のあるじの1部なのか、あるいはあるじが家の1部なのか、、、。
イギリスの小説にも家がとても重要な小説が多いけど、家の方が人よりも古く、家にいろんな物語があるからなんだろうね。
私が今住んでるところも多分100年位前の家で、その前に住んでたところは140年位前の家、今買う予定の家も120年位前の家で、作りの感じとか微妙に違うので、ここはこんな人が住んでたのかなと言うふうによく夫と話していたちょうどそのタイミングに、このテレビ番組を見た。
リバプールのフォークナー通り62番に始まる物語
どこにでもあるような普通の家。2018年に初めて放映されたBBCの番組「時をかけぬける家」(A House Through Time)の物語は約180年前、リバプールのフォークナー通り、左右がつながっている長屋(テラスドハウス)の62番に始まった。
(今のところこちらのリンクから番組をインターネット上で視聴できます。このリンクはシリーズ1-3ですが、「House Through Time」と入力するともっと多くのシリーズを視聴できるかもしれません)
戸籍、登記、からその所有者にどんな家族成員がいたか、どうやって死んだのか、新聞の不動産売買や賃貸、不用品売買広告から、どこへ引っ越ししたか、勤務先の記録から、仕事の種類や給料、収入を、店の購入履歴に記録があればその商品からどんな暮らしをしていたか、類推して、普通の家族がどんな暮らしをし、どんな風に離散し、新たな家族を作り、破産し、繁栄し、亡くなったか、役所などに保存された記録から追っていくドキュメンタリー番組だ。
一軒のありふれた家の歴史
「時をかけぬける家」(A House Through Time)は歴史家兼プレゼンターが、イギリスのいくつかの街それぞれで一軒の家を選び、時代とともに移り変わりながら暮らした市井の人びと一人一人の人生と住まいとの関わりを探る。住んだ人の時代によって、それが古ければ当時の記録や描かれた絵、その後は撮影された白黒写真やフィルムに及び、さらに近年に近くその子孫、後継者、近隣の生存者に手がかりがあれば多くの人びとのインタビューからも、構成されている。
こんな風に一軒のありふれた家の歴史番組はイギリスではそう珍しくないのではないか。家があってその家は何百年も存在するけれどそこに住む人間は移り変わっていく。家が人間を超越して存在し、その家にいろんな物語がある。
奴隷貿易時代を経て、石炭エネルギーへと移り変わる時代の住人
180年前のイギリスは、今では悪名高い奴隷貿易はじめ世界中で貿易をしていたので、リバプール、フォークナー通り62番地に住んでいた初期の所有者が米国に移住し、この番組のプレゼンターは米国にもその足跡をたどる。最初の頃住んだ2組の家族を扱ったら1時間番組が終わってしまい、その後家を売買したり賃貸した2~3組の家族は次の週に続き、さらに次の週に残りの家族の歴史が紐解かれる。
上のリンクのシーズン1-3で明らかになる、19世紀後半からの住人は馬のサドルを作る会社の経営者だ。彼より古い時代には馬が、その後は石炭、その後は石油や電気が産業、移動の手段となり、経済を支える力にもなっていった。そしてエネルギーの変換によってもたらされた経済が、彼の人生の盛衰ももたらしている。
スラムで生まれ、極貧から資産家になった住人
1-3での次の住人は、80世帯がたった2つのトイレを共有していたと言う極貧のスラムで生まれ育った。彼の妻も当時の新聞に詳細な記事が記載されるほど、ひどいドメスティックバイオレンス、児童虐待の犠牲者だったが、職場の仕立て屋で彼と知り合って結婚したと考えられている。
彼は底辺の見習いから、この家を買い仕立て屋の経営者にまでなり、引っ越しした後もこの家を含む複数の不動産を賃貸して投資も行うなど、亡くなった頃には資産家になっていた。死直前の記録や祖父母としての2人を記憶していた女性から、2人が最後まで幸せに結婚生活を送り、彼らの人生が野心的でありながら弱い者への思いやりに満ちていたことなどが語られる。