英国式朝食(フル・イングリッシュ ブレックファスト)
「フル・イングリッシュ ブレックファスト」(英国式朝食)とは、ソーセージ、ベーコンなど半調理済み素材をメインに、卵焼きなど料理とも言えない「暖め」レベルなシンプルなプロセスで調理したものを1皿に載せたもの。「卵はスクランブルエッグにしますか?」などと聞かれることも多い。
スコットランドでは「ブラックプディング」と呼ばれる豚の血を固めた真っ黒なプリン(*)が出されたり、いくらか地方性、バリエーションがある。
私のツレはイギリス人だが、実家で「フル・イングリッシュ ブレックファスト」なるものを食べたことはないそうだ。友達や親戚の家でも、「フル・イングリッシュ ブレックファスト」を個人の家では見たこともないとのことだ。
イギリス人にも外国人にも、比較的愛されている「フル・イングリッシュ ブレックファスト」
イギリスの食事はまずい、というのは定説なので、だんなの親戚のイギリス人さえ、外国人の私が「イギリスの食事って、おいしいわ!」などと言うと、びっくり仰天、こちらが悪い冗談を言ってるのではないかと、恐ろしく怪訝な顔をするほど。
そのイギリスで、イギリス人にも外国人にも、比較的愛されているのが「フル・イングリッシュ ブレックファスト」ではないかと私は思う。
比較的、というところがまたミソで、日本人の滞在者の話を総合すれば、「ほかと比べれば、食事をした気がする」から、というような理由で好まれているらしい。
イギリス人がなぜ「フル・イングリッシュ ブレックファスト」を好むのかは私はイギリス人ではないのでよくわからない。
英国式朝食の歴史
伝統的な朝食なのに、イギリス人が家で食べたことがないという「フル・イングリッシュ ブレックファスト」。
その謎を解くため、Wikipedia(英語版)を読んだけれどなぜか、歴史の説明がほとんどない!
やむをえず検索でさらに調べてみたら、
このサイトは個人が作った英国式朝食のファンクラブみたいなサイトで、ウィキペディアよりも詳しかった。
これによると、どうやらビクトリア時代くらいからお金持ちの間で食べられていた豪華朝食を「フル・イングリッシュ ブレックファスト」と呼び始めたようだ。
そして「より伝統的な英国式朝食」は、巨大なポークチョップとかポークローストとか、キジの足とか、、、狩猟民族の胃を必要以上に満足させるメニューとなっている。
英国式朝食はどこで食べられる?
もし「フル・イングリッシュ ブレックファスト」が家で食べられてないとするとどこで食べられているのか?
私が知る限りそれは「グリーシー・スプーン」と言われる簡易食堂や、イギリスで伝統的な「ティーショップ」、またはB&Bや、ホテルなのではないかと思う。私もイギリスで田舎を旅行するときはB&Bに泊まることが多いので「フル・イングリッシュ ブレックファスト」といえばB&Bで食べることが多い。
B&Bについてはまた別に近いうち書くつもりで、今日は「グリーシー・スプーン」と「ティーショップ」について。
街の食堂「グリーシー・スプーン」
「グリーシー・スプーン」は「油っこいスプーン」の意味で、いかにも呼称からして皮肉っぽい感じだけど、もちろんスプーンでなく油っこいのは食べ物の方。労働者階級といっぱんに言われる、要はあんまりお金のない一般庶民たちの行く安い簡易食堂のこと。日本でも床がコンクリートのままで、カウンターでお金を払って食券もらってカツ丼とかそばとか出すような食堂が地方にあるけど、あんなイメージに近い。
「グリーシー・スプーン」では一般的に1日中フル・イングリッシュブレックファストとその変化形(卵を1個でなく2個とか)をいろいろと提供していて、文字通り店の看板メニューとなっている。
今でもイギリスは、炭鉱で産業革命を通して栄え、鉄鋼で七つの海へと貿易を開拓した大英帝国に、歴史的恩恵を受けているはずだ。その近代イギリスを支えたのが労働者階級だったわけで、貴族たちの豪華な朝食からよりパターン化され、ベーコンやソーセージなどの安物の加工肉で労働者階級の胃袋を満たしたのがこの「フル・イングリッシュ ブレックファスト」なるもので、今でもそうなのではないか。
カフェ(ティーショップ)
「ティーショップ」は以前は地方都市でよく見かけた、イギリス伝統的なデザインの喫茶店。客層は上品で年配な女性客で、地元画家の絵をいっしょに飾ってギャラリーを兼ねたりしていた。
最近はちょっとモダンなインテリアデザインで「Cafe」に看板を変えて存続していることが多く、そうなるとティーではなくカフェアメリカーノとかコーヒーがメインメニューで若い客、男性客も多い。
このような店の多くでも「フル・イングリッシュ ブレックファスト」は人気と思う。
「グリーシー・スプーン」と「ティーショップ」の中間と思える店もあるので区別はしにくいこともあるが、「ティーショップ」では「アフタヌーン・ティー」と呼ばれるサンドイッチやスコーンをセットにした軽食を扱っていて、「グリーシー・スプーン」ではそのメニューはおそらくないだろう。で、「グリーシー・スプーン」人気ナンバー・ワンのメニューが、この「フル・イングリッシュ ブレックファスト」ではないか?
ベジタリアン・ビーガン向け・フル・イングリッシュ ブレックファスト
私もイギリスに留学中は、今よりずっとレストランが少なく外食が一般的でなかったので、行くとしたらマクドナルドかピザのチェーン店くらいしかなかった。
それ以外で外食する場合「グリーシー・スプーン」っぽいタイプの「ティーショップ」に行って「フル・イングリッシュ ブレックファスト」を注文していた。
ちょっと品のいいのティーショップとか行くと、(グリーシースプーンにはあまりない)「ベジタリアン向け」のフル・イングリッシュ ブレックファストがある。
「ベジタリアン向け」は、卵、フライドトマト(トマトを炒めたもの)と、フライドマッシュルーム(マッシュルームを炒めたもの)、ベイクドビーンズ(下記参照)が主で、私がよく行く店ではソーセージ・ベーコンの代わりにコーンをまぶしたお好み焼きかおやきのようなものをつけてくれる。
ビーガンなら卵も食べないので、ビーガン向けは、卵のような食感と風味を出したターメリックと緑豆のタンパク質で作られた代替卵などを使う。
でも、たとえメニューになくても、私は比較的菜食系なので、当時も今も「フル・イングリッシュ ブレックファスト」を注文するときは「ベーコン、ソーセージは要りません」と言っている。
かわりに「ベークド・ビーンズ」という大豆のトマトソース煮を頼む。
最初からついてていることが多いが、「ベーコン、ソーセージは要らないので、ベークド・ビーンズの量を多めにお願いできますか」などと聞くこともある。(お店の雰囲気に応じて聞きやすそうな場合のみ。今のところ断られた事は無い。)
英国式朝食の重要アイテム・ベークドビーンズって?
「ベークド・ビーンズ」は、まったりしためりはりのない味で、イギリスの一般のスーパーで1ポンド、つまり130円くらいで売っている缶詰を暖めて出すだけなので、画一的ながら気にならない味。それからフライドトマトとフライドマッシュルームも頼むと(フライドというのは炒めもののこと)確かに「食べた」という気がする。(たぶんこれがイギリス人間の人気のヒミツか)イギリスではこれだけの暖かい食べ物をそろえて出すメニューは、まともなレストランで以外の店ではあんまりないのだ。
日本でも輸入品販売スーパーで(高いけど)イギリスの食品を買えることができる店が近くにあるので、最近わが自宅でも「ベークドビーンズ」と卵焼き、フライドトマトで「イングリッシュ ブレックファースト」を食べたりする。イギリス人は卵が好きで卵をよく食べるせいか、夫は卵の料理がとってもうまい。だから卵はまかせているし、最近はこの「イングリッシュ ブレックファスト」全部をまかせている。
*ブラックプディングは「プディング」と呼ばれいても甘くない。見た目は真っ黒なので不気味なかたまりそのものだが、味はベーコンっぽい。
参考文献
”Are Vegan Eggs Just As Healthy As the Real Deal?”
by Gabrielle Hondorp 最終閲覧日 2021年5月20日